『ゲド戦記』主題歌の歌詞に込められた5つの意味

『ゲド戦記』主題歌の歌詞に込められた5つの意味
ゲド戦記の代名詞でもあり手嶌葵さんのファーストシングル曲の「テルーの唄」。ゲド戦記の物語の中で重要な役割を持っています。その歌詞に込められた意味を原作や過去のインタビューを踏まえ、私見も交えながら考えてみようと思います。



 

『ゲド戦記』
主題歌の歌詞に込められた5つの意味

 


1・人の持つ孤独感


人影耐えた野の道を 私とともに歩んでる

あなたもきっと寂しかろう

虫の囁く草原を とも に道行く人だけど

絶えて物言うこともなく

「テルーの唄」より

「テルーの唄」の中にこのような歌詞があります。この歌詞のもとになったのは萩原朔太郎の詩のひとつである「こころ」です。

こころは二人の旅びと

されど道づれのたえて物言ふことなければ

わがこころはいつもかくさびしきなり。

「こころ」より

切なさとどこかなつかしさを含むこの詩はテルーやアレンの孤独な心境にぴったりだと思います。五郎監督はこの詩に心の中の孤独を見出し、その感情を映画の中の登場人物たちの孤独感に、形は違えど相通じるものはあると語っています。この歌詞を見た鈴木プロデューサーは瞬時にこの歌詞の意味を理解し、作曲した谷山浩子さんはすんなりとメロディを作ることが出来たと言います。人のさみしさを表現したこの歌詞だからこそ多くの人に理解されるような詞が出来たということなのでしょう。

 


2・戦い続けなければならない人の孤独


次に、谷山浩子さんがインタビューで答えた三つの歌詞のテーマについて考察してみます。

夕闇迫る雲の上
いつも一羽で飛んでいる
鷹はきっと悲しかろう
音も途絶えた風の中
空を掴んだその翼
休めることはできなくて

心を何にたとえよう
鷹のようなこの心
心を何にたとえよう
空を舞うよな悲しさを

「テルーの唄」より

これが一番目の歌詞です。鷹といえば速く、力強いというイメージがあると思います。しかし、音も無く、仲間もいない。只々広い空を飛ぶ鷹はどのような気持ちなのだろうか。例え自由を手に入れたとしても空しさはぬぐえないのか。親の虐待を受け続け、今も尚孤独ながらも強く生きていかなければならないテルーの心情を表しています。

 


3・見てくれる人や守ってくれる人がいない、それでも生きている人の孤独


雨のそぼ降る岩陰に
いつも小さく咲いている
花はきっと切なかろう
色も霞んだ雨の中
薄桃色の花びらを
愛でてくれる手もなくて

心を何にたとえよう
花のようなこの心
心を何にたとえよう
雨に打たれる切なさを

「テルーの唄」より

2番目の歌詞です。花というものは美しく、咲いているだけで多くの人に愛されます。でも岩陰にひっそりと咲いていては誰も愛でてはくれない。幼いころに与えられるべき親の愛情を与えられず、顔の火傷のせいで周りの人間からも蔑まされる。テルーは誰かに愛されることを欲していたということなのでしょう。

 


4・それらが普遍的になっていく孤独


人影絶えた野の道を
私と共に歩んでる
あなたもきっと寂しかろう
虫の囁く草原を
ともに道行く人だけど
絶えて物言うこともなく

心を何にたとえよう
一人道行くこの心
心を何にたとえよう
一人ぼっちの寂しさを

「テルーの唄」より

3番目の歌詞です。最初はともに歩んでいる『あなた』がいますが、サビの部分では『一人』になっています。この部分は前述した萩原朔太郎の「こころ」に大きく影響を受けた場所であり、サビの前の『ともに道行く人だけど 絶えて物言うこともなく』が元となった『されど道連れの絶えて物言ふことなければ』と同じ意味を持っているのだとすれば『あなた』は故人であるということになります。歌詞の最初は『私』の想像で実際は一人でいる寂しさから逃れようとしているとは考えられないでしょうか。思い出に寄り添って『あなた』を思い出しても自分に話しかけてくれるわけでもない。悲しさは消えない。一人ぼっちなのは変わらない。この辺はストーリーのテルーの過去とはあまり関係ない解釈をしましたが、そんなつらい現実を歌っているのだと考えました

 


5・こころとは


テルーは歌の中で自分の心とは何かと問います。

「鷹のようなこの心」「空を舞うよな悲しさ」1番目は自由をもってしても一人は悲しくそれでも強くあらなければならない辛さ。

「花のようなこの心」「雨に打たれる切なさ」
2番目は誰にも愛されず雨のような冷たさしか感じることのできない悲しさ。

「一人道行くこの心」「一人ぼっちの寂しさ」
3番目は思い出に縋っても何もない空しさ。

それぞれこのようなものだとテルーは考えていると私は考えます。テルーの心は寂しかった。だからこそ同じく悲しみを抱いていたアレンは彼女の歌に涙し、自分の気持ちを打ち明けたのだと思います。

 

いかがでしたか。

勿論これは私の解釈なので正当性はありません。しかし、これを見てくれた方が少しでも共感してもらえたら、あるいは別の解釈を見出せたのであれば幸いです。今一度この「テルーの唄」の歌詞を、そしてご自分の心の中を見つめなおしてみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

『ゲド戦記』
主題歌の歌詞に込められた5つの意味

1・人の持つ孤独感
2・戦い続けなければならない人の孤独
3・見てくれる人や守ってくれる人がいない、それでも生きている人の孤独
4・それらが普遍的になっていく孤独
5・こころとは