2006年にゲド戦記が公開され、同時に人気を博した『テルーの唄』。その主題歌を歌うのは、当時まだ新人だった手嶌葵さんがでした。華々しいデビューを飾ってからずいぶん経ちましたが、新人の彼女がなぜ、大手スタジオジブリ作品の主題歌歌手に抜擢され、あの寂しくて、綺麗な曲『テルーの唄』がどのようにして誕生したのか?その疑問は、今までは関係者にしか語られず、謎の部分も多かったです。今回はそんな疑問を解消するため、彼女の今まで育ってきた経緯や関係者からの発言をまとめ、『テルーの唄』誕生にまつわる7つの秘話をご紹介したいと思います。
ゲド戦記主題歌、
『テルーの唄』誕生にまつわる7つの秘話
1・女神との出会い
宮崎五郎監督と手嶌葵さんの出会いのきっかけはヤマハ音楽振興会が主催する音楽オーディション「DIVA」に彼女が参加したところから始まりました。このヴォーカルオーディションに参加した手嶌さんはそこでBette MidlerのThe Roseを歌いました。
Bette Midlerとはアメリカの歌手でグラミー賞を受賞するほどの実力派です。彼女の楽曲のひとつであるThe Roseは1979年11月に公開した同名の映画「The Rose」の主題歌で1980年にはシングルとして全米3位のヒットを記録し、この曲で彼女はグラミー賞最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス部門を受賞しました。
当時17歳の選曲としてはかなり渋いですね。しかしこの曲は対人関係で辛い思いをしていた彼女の中学時代の心の支えとなった思い入れの深い曲でもあります。そのオーディションの審査員が宮崎五郎監督で彼女の歌に聞き惚れて自分の作品に抜擢した……というわけではないのです。
実際はその時オーディションの審査員の一人だったヤマハ音楽振興会の西込伸一さんがサンプリングを事業部の方に渡し、それがたまたま仕事で知り合ったジブリプロデューサーの鈴木敏夫さんに渡り、宮崎五郎監督のもとへ届けられたという非常に長い過程を経ていたのです。監督はこの出会いを女神との出会いと呼んでいます。多くの人を魅了した手嶌さんの歌声は、偶然が重なったとはいえ、なるべくしてゲド戦記の主題歌になったということなのでしょう。
2・最初は断るつもりだった
劇中で新人ながら名演を見せたテルー役でもある手嶌葵さん。実は最初テルー役を断るつもりなんだったとか。ジブリ作品はちゃんとした俳優や声優を起用しており初心者の自分が中途半端に参加することに疑問を抱いていたようです。しかし監督の熱い要望に応え声優として参加することを決意しました。最初はどうやって演技をすればいいのか戸惑っていたものの、後に彼女は「おそらくテルーは頑固で、怖がっているのを見せたくないから強がっている女の子なんだろう」とインタビューで語るほどキャラクターの特徴と心境を理解できるようになっています。
3・読書家の家庭で育つ
両親が漫画を読まない家庭だったので小さいころは家にあった文学集を読み、小学校の時は図書局員を務めていたそうです。なんとゲド戦記の原作も中学生の時に読んでいたのです。テルーが立つ草原やホートタウンは自分がイメージしていた世界が鮮やかに表現されていたと語っています。このころから、テルーの唄の世界観が育っていたんですね。
4・映画や音楽が常にある生活
両親からの影響は本だけにとどまらず、実は大の洋楽好きだそうです。なかでもジャズを好んで聞かれていたようで、ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディなどの曲が、常に流れるご家庭だったようです。手嶌さん自身が特に衝撃を受けたと語っていたのは、中学時代に聴いたルイ・アームストロングの「ムーン・リバー」だそうです。
また、彼女のもう一つの趣味は映画観賞で、「オズの魔法使い」「秘密の花園」「小公子」「ティファニーで朝食を」等がお気に入りです。ジブリ作品の中で好きな作品は「紅の豚」。これまた渋い。宮崎駿監督も続編を作りたいと話していましたからひょっとしたら手嶌さんが声優で出演することもあるかもしれませんね。
彼女のルーツをたどると、もはや年齢からはかけ離れた、典型的な”古典”と言える作品を好んで選んでいると言えます。そういったさまざまな映画、音楽を小さなころから慣れ親しんでいたため、演技や歌に必要な、想像力や感受性を自然と育んでいたのでしょうね。
5・製作者を惹きつける映画話
こんな話が、映画関係者の口から出ています。実は、手嶌さんが初めてスタジオジブリに来訪した時、鈴木プロデューサーがホテルまで送って行ったそうですが約1時間近いその道中をずっとしゃべっていたそうです。一見おとなしそうな雰囲気の彼女からは想像できませんね。鈴木プロデューサーと映画や音楽の話で盛り上がれるだけのその豊富な話題力は、前述の古典的な作品が好きというところにあるようです。歌声だけではなく、こういったポイントも彼女が選ばれる要因となっていたといえるでしょう。
しかし、実は五郎監督とは当時あまり話したことはなかったらしいです。プロデビューと声優への初挑戦ということもあり、お互いに緊張していたのかもしれませんね(笑)。その証拠に、後の「コクリコ坂から」では話もたくさんして楽しく仕事が出来たと語っています。
6・家族の支え
前述したように手嶌さんの両親はあまり漫画を読まない家庭でしたが、娘が歌手としてチャンスをもらったことを喜び「チャンスをもらえたのはとても大きいことなので頑張りなさい」と後押ししてくれたようです。ただ、流石に家族といっしょにセリフの練習は恥ずかしいのでしなかったそうです(笑)。
7・共鳴する心
手嶌さんはテルーについて「とても強い子ですけれど、すごく優しくて、心の力が強いと思います。頑固者なところや負けず嫌いなとか、似ている部分はあると思います」と答えており、自身の性格も頑固で気が強いと語っています。テルーの心と手嶌さんの心が共鳴できたからこそ、歌においても素晴らしい成果を収めることになったということでしょう。
いかがでしたでしょうか。
『テルーの唄』誕生にまつわる7つの秘話をご紹介しました。偶然がめぐり合わせた抜擢とはいえ、『テルーの唄』が誕生した経緯を見れば、運命的なものを感じます。これを読んで少しでもゲド戦記への理解が深まれば幸いです。
まとめ
ゲド戦記主題歌、
『テルーの唄』誕生にまつわる7つの秘話
1・女神との出会い
2・最初は断るつもりだった
3・読書家の家庭で育つ
4・映画作品をたくさん見ていた
5・製作者を惹きつける映画話
6・家族の支え
7・共鳴する心