世界最速のインディアンがもっと楽しくなる!俳優たち7つの秘話

世界最速のインディアンがもっと楽しくなる!俳優たち7つの秘話
映画『世界最速のインディアン』はどんな困難な状況であってもくじけることなく、生涯夢を追い続けた実在のライダー、バート・マンローの物語を映画化したものです。

バートは1962年に63歳で1000cc以下の流線型バイク世界最速記録を達成し、以降8年連続で世界記録に挑み続け、未だにその記録は破られていないという偉業の持ち主。しかし、それはバートにほれ込み監督・脚本をすべて引き受けたロジャー・ドナルドソンの執念なしでは日の目を見ることはありませんでした。ロジャーはバートが71歳の時、彼のドキュメント映画として「Offerings to the God of Speed」(1972)という作品を手掛けています。バートの伝記作品といえるものです。

本作には、バートや監督ロジャーのように「夢追い人」がたくさん登場します。編集を手がけたジョン・ギルバート(ニュージーランド出身)は「ロード・オブ・ザ・リング」(2001)の編集でアカデミー編集賞などにノミネートされたという人物です。『世界最速のインディアン』を裏側から支えているこうした人々をご紹介します。 



 

世界最速のインディアンが
もっと楽しくなる!俳優たち7つの秘話

 


1、「バート役はハッピーだった!」―アンソニー・ホプキンス


誰にも公平で、やさしくて、おちゃめで、でもしっかりと一本筋は通す。とっても魅力的なバート・マンローです。彼を演じたのは名優アンソニー・ホプキンス。アンソニー・ホプキンスといえば、この映画の数年前に制作された『ハンニバル』のレクター博士の印象が強烈ですが、実はバート同様、アンソニーもハッピーな性格なんだそうです。「今まで、ずっと、変質者や神経質な人間を演じてきて少々うんざりしていたけれど、本当はすごくハッピーな人間だから、バート・マンローの人生哲学や性格は自分の気性とても合っている」のだそうです。

また、「ロジャーはとても冷静沈着な監督だね。スタッフもここ何年もの間に出会った中で最高だった。僕は彼らが準備している間、セリフを覚えて自分の仕事をするだけさ。もしかしたら、バートの霊が僕らといっしょにいてくれたのかもしれない。愉快な男だったようだからね。女好きだし、ユーモアもある。そんなバートが大好きさ。偉大であると同時に、ものすごく寛容な男だったと思う」とご機嫌です。『日の名残り』の執事など、はまり役に思えましたが、このバート役こそはまり役だったんですね。映画の中では「ユーア・マイ・サンシャイン」を歌って踊るシーンもあります。アンソニーファンなら、彼自身が楽しんで演じてくれたということ自体うれしいですね。

 


2、老いの侘しさを分かち合える? エイダ役のダイアン・ラッド


競技場へと旅を続けるバートは、外れた車輪代わりに倒木をあてがいますが、道すがら農場を見つけて台車の修理のために立ち寄ります。農場の主はエイダという名の初老の未亡人。たった一人で家を守っていました。最初はいぶかしげな様子のエイダですが、すぐにバートの人柄を理解します。泊まっていけとの誘いを受け、バートはエイダと一夜を共にすることになります。翌朝、目的地へと出発するバートに、エイダは、帰りにもう一度立ち寄って抱きしめてくれと囁き、バートは約束します。

エイダ役は、アカデミー助演女優賞に3度ノミネートされたダイアン・ラッドです。ローラ・ダーンのお母さんでもあります。映画「ランブリング・ローズ」(1991)では、娘ローラと共演し、そろってオスカー候補になりました。名優同士のやりとりは、ゆったりとした味わいを醸し出して、映画に深みを与えています。

 


3、善きアメリカ人・ジム役のクリス・ローフォード


遠路はるばるアメリカまでやってきて、苦労の末にボンヌヴィルスピードウェイ競技会場までたどり着いたバートですが、彼は競技に出るには「出場登録」が必要ということを知らなかったのです。最大の危機が訪れます。愛するマシンが安全性テストで「前代未聞のポンコツ」と笑い飛ばされ、出走資格なし、と宣告されてしまったのです。この最大の危機に助っ人があらわれます。出場者ジムです。会場入りしたときに知り合っただけの間柄でしたがバートが困っていることを知ると、彼は熱心に受付を説得してくれました。この善き人ジムをクリス・ローフォードが演じました。

クリスの父親は俳優のピーター・ローフォード、母親はジョン・F・ケネディの妹のパトリシア・ケネディー・ローフォードで、彼にとってJ・F・Kは叔父にあたります。バートが初めて最速記録を打ち立てた1962年の翌年にケネディ大統領が暗殺され、また1968年あたりからベトナム反戦の世論がわきおこります。映画にもベトナム戦争に再び参加する青年が出てきます。こうした時期に多感な10代だったクリス。出演のオファーをなつかしい思いで受け入れたのではないでしょうか。

 


4、隣家の少年トムとレモンの木


ニュージーランド・インバーカーギル、アメリカへ発つバートを見送る人は隣家の家族ほか数人。そして、バートが世界一になれると本気で信じていたのは隣家の少年トムだけでした。バートは友人トムに、いつもおしっこをかけて育てているレモンの木と鶏の世話を託し、家の鍵をあずけて我が家をあとにします。

ところが、多くの人の思惑を裏切って、バートは1000cc以下のレースで優勝します。故郷インバーカーギルは大騒ぎになります。帰ってきた英雄バートをトムは大喜びで迎え、預かったレモンの木に案内します。短い間でしたが、レモンの木もトムも背が伸びていました。大人の男と少年のこうした友情は泣かせます。こんなふうに男の子は大人になっていくんだとしみじみ思い知らされます。

 


5、相棒「インディアン・スカウト」


インディアン・スカウトとはバイクの名称です。バートは21歳のときにこの1920年型インディアン・スカウト”に出会い、生涯をかけてこつこつと改良を加え続けます。資金不足のためにパーツはほとんどがお手製。オイルキャップはブランデーのコルク栓、スリックタイヤが買えないので、普通タイヤの溝を肉きりナイフで削って、ひび割れたら靴墨を塗って使うというローテク…。

しかし、慈しんで育てた愛情が伝わったかのように、インディアン・スカウトは広大な塩原をバートとともに疾駆し、2輪でありながら新幹線並みの速度を出していたのです。驚嘆します。

 


6、胸に宿るはニュ―ジーランド魂


映画の中で、バートが「ニュージーランドから来た」と言うと、アメリカ人は、「英国から来たのか」と返す。そう言われるたびにバートは「 ニュージーランドから来たのだ」と再び返しています。そして彼が飲むのは紅茶。アメリカから見ればニュージーランドとは英語圏のはずれにある田舎というイメージなのでしょうが…。

この映画を制作したロジャー・ドナルドソン監督はニュージーランドとバート、そのユニークさについて次のように語っています。「ニュージーランドは、何かをやると決めたら、できてしまう国だ。官僚主義や、あるいは映画監督はかくあるべしという先入観を持った人たちに邪魔されないからね。『とにかくやる』という精神に対して非常に好意的な国で、バート・マンローはまさにそういう精神の持ち主だった。彼はニュージーランド人ならではのやり方をした。つまり、不足を嘆くよりも、身近にあるものを最大限に活用したんだ」。

この自由な気風のニュージーランドだからこそバートの偉業はなしとげられたんですね。実在のバートの家の近くに住んでいた人は「あそこはうるさくて有名な家だった」と本当に言っていたそうですが、ニュージーランド魂に下支えされたこの映画、今では郷土の誇りです。

 


7、すべては 監督ロジャー・ドナルドソンから


1971年、ロジャー・ドナルドソンは生前のバート・マンローに会いドキュメンタリー制作を持ちかけた。「ボンヌヴィルへはもう行かない」といっていたバートを説得し決行しました。そのようにして完成したのがドキュメンタリー「Offerings to the God of Speed」でした。

このドキュメンタリーは、73年にニュージーランドで放映され好評でしたが、当時のロジャーには本格的な映画製作の資金もなく、78年にバートが亡くなった後、バートを主人公に長編劇映画を作ろうと決心し、79年にプロジェクトをスタートさせました。ロジャーはこの作品に対する思い入れを次のように語っています。「資金提供の申し出は何度かあったが、もっと売れる作品になるように脚本を書き直すことが条件だった。僕は自分のビジョンを曲げるつもりはなく、思い通りにこの作品を作れる日が来るまで待つ覚悟はできていた」

「1993年の『リクルート』完成後、バートの物語に戻ろうと決めた。今やらなければ、一生できないと思った。2年間、脚本の書き直しと資金集めに専念したよ。皆にインスピレーションと元気を与える作品になると信じて、とことん脚本に手を入れた。バート・マンローのスピリットを捉えた、一切妥協のないエンターテインメント作品を書き上げることができたと思う」。

 

ロジャーの思いはこの映画に凝集されていっていいでしょう。実に30年以上もの年月をかけて彼はこの作品の完成にたどり着いたのです。バート・マンローという宝石のような男の生涯。それにたくさんの人々の夢が幾重にも連なるようにしてこの『世界最速のインディアン』は完成したといえます。それ自体壮大な一編の物語のようです。バートの隣家の少年トムのようにきっと誰かが語り継いでいってくれるのでしょう。

 

まとめ

世界最速のインディアンが
もっと楽しくなる!俳優たちの秘話7つ

1、「バート役はハッピーだった!」―アンソニー・ホプキンス
2、老いの侘しさを分かち合える? エイダ役のダイアン・ロッド
3、善きアメリカ人・ジム役のクリス・ローフォード
4、隣家の少年トムとレモンの木
5、相棒「インディアン・スカウト」
6、胸に宿るはニュ―ジーランド魂
7、すべては 監督ロジャー・ドナルドソンから